査読は、論文の質を保証し、研究の進展を支える上で非常に重要な役割を果たしています。しかし近年、論文数の増加や研究を取り巻く状況の変化により、査読者の負担が増加していることが懸念されています。
IOP Publishing(英国物理学会出版局)は、2024年に査読者の現状と意識に関する調査を実施しました。今回はその調査結果から、査読をより良くするためにできることを探ってみましょう。
調査結果の概要
2024年の調査では、様々なキャリアステージの研究者を含む、105カ国の物理科学および環境科学分野の研究者3,046人から回答を得ました。
主な調査結果は以下の通りです。
査読依頼数:
約50%の回答者が、過去3年間で受け取る査読依頼数が増加したと回答しました。
査読の負担:
査読依頼数が多すぎると回答した研究者は約16%でした。特に高所得国の査読者や准教授以上の職位の人々は、査読依頼数に負担を感じる傾向にありました。一方で若手研究者の35%は査読にもっと時間を割けると回答しました。
査読におけるバイアス:
特定の地域の著者や若手研究者に対して、故意に査読を保留したり遅延するなどといった査読過程でのバイアスを経験したと報告する回答者は、2020年の24%から16%に減少しましたが、依然としてバイアスが存在することが示唆されています。
査読方法:
52%の回答者が、シングルアノニマイズドまたはオープンな査読と比較して、ダブルアノニマイズドの査読を好むと回答しました。
査読の動機:
最も多い動機は論文への関心とジャーナルの評判で、最も少なかったのは現金や現物の利益でした。査読を辞退する理由としては、専門分野外やCOI(利益相反)の他に、著者として論文を投稿したときに査読期間が長すぎた等の否定的な体験が挙げられました。
査読への要望:
投稿査読システムの改善、著者・査読者・編集者間のコミュニケーションの増加、査読者トレーニングなどが高い評価を受けました。
査読をより良くするためにできること
今回の調査結果から、査読者の負担軽減や査読の質の向上に向けて、以下の取り組みが考えられます。
1. 投稿査読プロセスの見直し
投稿や査読の各工程を見直して査読期間の短縮などの改善を行うことは、査読を辞退したくなるような研究者の否定的な体験を解消するだけでなく、編集者の負担軽減にもつながります。また、ジャーナルポリシーが確実に論文誌面に反映されるような体制を整えたり、査読の質を統一することは、ジャーナルの成長につながる重要なポイントで、ESCIやPMCなどの国際的なデータベースへの収載審査でも厳しく確認されています。この機会にSeeklで投稿査読プロセスを見直してみましょう。
2. 査読の負担軽減:
査読者の専門分野や負担状況を考慮して依頼することで、一人当たりの負担を減らし、より質の高い査読が可能になります。例えば評議員全員を査読システムにアカウント登録することで、様々な研究者に依頼しやすくなり、学会内や領域における負担の偏りを減らすことができます。
3. 査読者の育成と支援
査読は専門的な知識やスキルを必要とするため、若手研究者に対する査読トレーニングの機会を増やすことが重要です。適切な査読ガイドラインを用意したり、編集委員会などで査読の呼びかけやトレーニングを行ったりすることで、査読者を支援しましょう。ちなみにSeeklでも査読者教育のサポート実績 があります。
4. 査読におけるバイアスの低減
査読者の選定や査読プロセスの透明化を通じて、バイアスを排除する努力が必要です。また、著者と査読者が互いに匿名であるダブルアノニマイズド査読の導入を検討することも、地理的または個人的なバイアスの低減につながると考えられます。
5. 査読者のモチベーション向上
査読者に対して適切なフィードバックを提供したり、Reviewer Awardのような、査読者の貢献を正当に評価し可視化する仕組みを導入したりといった取り組みを行うことで、査読者のモチベーションを高めることができます。
まとめ
今回の調査から、査読期間の長さや査読者の負担の偏り、バイアスの存在などの問題があることや、査読者たちの様々な意見を知ることができました。我々Seeklも編集業務をサポートする中で、査読者の負担の大きさを実感することが多々あります。特に、専門性の高い分野や論文数が多い分野では、特定の方への負担が集中しがちです。査読は、金銭的な見返りなどはほとんどなく、学術の発展ために、査読者の善意によって成り立っています。その善意に報いるためにも、負担の軽減や効率的な査読プロセスの構築、そして貢献していただいたことへの感謝を示すことがとても大切だと感じました。
査読は学術ジャーナルの出版、ひいては科学の発展に不可欠な営みです。皆さまも、査読をより良くするために何ができるか一緒に考えてみませんか?
Seeklの投稿・査読工程コンサルティング では、より良い査読にするための仕組みづくりをサポートします。ぜひお気軽にお問い合わせ ください。