OA出版大国 インドネシアの急成長に学ぶ

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OA出版大国 インドネシアの急成長に学ぶ

Seeklコラムでは連日オープンアクセス(OA)について取り上げていますが、近年OA出版はもはや主流な出版スタイルの一つと言えます。

OA出版を行う上で欠かせないのが、国際的なOAジャーナルのディレクトリであるDirectory of Open Access Journals(DOAJ) への収載です。収載にあたっては厳正な審査が行われ、健全なOA誌でなければ収載されません。

さてこのDOAJですが、実はインドネシアのジャーナル収載数が世界一であることをご存じでしょうか。学術先進国である欧米を抜いて世界一のOA大国となったインドネシア、今回のSeeklコラムではその理由を探っていきましょう。

◆インドネシアは学術新興国

インドネシアは東南アジア南部に位置し、人口は2024年時点で世界第4位の2.8億人を抱える大国です。人口増加に伴って経済も成長を続けており、名目GDPは2000年から2024年で約8倍にまで成長しています。

順調経済成長を背景に、インドネシアは学術方面でも急成長を遂げています。
Scimago Journal & Country Rankによると、Scopus収載誌に掲載されたインドネシア発の論文は2000年には769論文だったものが2024年には64,596論文、成長率は脅威の8300%です。
ちなみにアメリカは99%、日本は33%、成長株の代表格とされる中国すら2256%であることを考えると、成長のすさまじさがわかりますね。

一方、研究開発予算はかなり少なく、対GDP比でみても先進国はもとより同じ東南アジア諸国と比べてもかなり低い値です。例えば2020年の研究開発投資額対GDP比を比べてみるとインドネシアとしては0.28%と過去最高でしたが、日本(3.27%)、米国(3.42%)、中国(2.4%)に比べると著しく少ないことがわかります。
限られた研究予算の中で爆発的に論文数を増やしている背景には、国としての成長はもちろん、OA出版の推進と競争環境を生み出した政策が関係しています。

◆インドネシアがOA出版大国となったわけ

実はOA出版大国であるインドネシア。
2025年3月時点でDOAJにはインドネシア発の2,473誌が収載されています。これは全収載誌の約11.5%に相当し、出版大国であるアメリカ(1,223誌)やイギリス(2,176誌)を抑えて世界1位です。

成長著しいインドネシアですが、ここまでDOAJ収載誌が多いのには特有の事情があります。
きっかけとなったのはインドネシア政府が運営するScience and Technology Index(SINTA)という研究成果の評価・可視化プラットフォームの登場です。
SINTAはインドネシア国内の研究者や大学などの研究業績を管理・分析、業績をSINTAスコアとして可視化しました。このSINTAスコアを用いたランキングも公開され、研究者や大学、ジャーナルの格付けを行うことで、競争が生まれやすい環境を作り出しています。

SINTAの登場は、ジャーナル間の競争に拍車をかけていきました。というのもインドネシアは欧米や日本とは異なり、大学がジャーナル出版の中心的役割を担っており、ジャーナルへの評価は大学の格付けにも影響を与えるためです。
SINTAスコアおよびそれによる格付けは、インドネシア国内の学術出版関係者に強い影響力を持ち、SINTAスコアを上げるための活動の一つとしてオープンアクセス化およびDOAJへの収載に多くのジャーナルが取り組むようになりました。実際、2009年~2014年の間におけるDOAJ収載誌は年間10誌程度でしたが、2015年~2016年は約100誌、SINTAが開始された2017年に至っては466誌が収載。以降は年間200誌程度が採用され続けており、その数を伸ばし続けています。

◆インドネシア発 OA誌の特徴

インドネシアでは大学がジャーナル発行の中心的役割を果たしてきました。そこにSINTAという学術的な評価を明確化する制度が登場し、その外圧を受けて急速にOA出版およびDOAJが普及しました。
DOAJ収載済みの2,473誌のうち1,346誌は論文掲載料(APC)が無料です。APC無料のOA誌が多くある環境は、急激に発展する反面、決して潤沢とは言えない研究予算をもつ研究者の活動を支えています。

一方で課題の残る部分もあります。例えばDOAJ収載誌の1,924誌は論文にDOIを付与していますが、残るジャーナルはDOIを導入していません。引用の正確性やアクセスの恒常性、相互運用性を支えるためにも現代の学術出版において欠かせないDOIですが、インドネシアにはまだ普及の余地が残っています。著作権の持ち方についても課題は残ります。Creative Commonsライセンスに基づき著者に無制限の著作権保持を認めているジャーナルは730誌しかなく、一方で400誌近くは従来通りジャーナルや出版社レベルで著作権を保持しています。

◆日本もOA大国を目指して

急速な経済成長と共に学術方面でも成長著しいインドネシア。
出版論文数の増加はもちろん、今ではDOAJへの収載誌数が世界一となりました。もちろんDOIの普及や著作権の保持方針などまだまだ改善の余地はありますが、いずれ世界の学術出版界をリードする可能性を秘めています。

一方、日本のOA化状況を見ると出遅れていると言わざるを得ません。例えば国内最大の学術情報プラットフォームであるJ-STAGEには2025年10月現在、4000誌以上が公開されていますが、そのうちOA誌と認定されているのは430誌程度であり、DOAJに収載されているのはたったの89誌です。

2024年には世界で発行された論文の半数以上がOA出版されており、欧州に続き日本やアメリカの助成機関も対象研究のOA出版を義務化しているなど、世界はOA出版が主流になりつつあります。
(詳細はこちら:公的資金と即時OAの義務化

特に海外へのアプローチを強めたい英文誌にとって健全なOA出版環境を整え、DOAJに収載されることは大変重要なことです。DOAJへの収載とその後の成長まで、ぜひわたしたちSeeklにおまかせください

[参考資料]
DOAJ, Understanding the Growth of Indonesian Journals in DOAJ
https://blog.doaj.org/2025/04/22/understanding-the-growth-of-indonesian-journals-in-doaj/

国立研究開発法人科学技術振興機構, インドネシアの研究開発動向と科学技術ガバナンス改革
https://spap.jst.go.jp/investigation/downloads/2023_rr_07.pdf