研究者から信頼されるジャーナルの特徴の一つは、研究不正を防ぐ仕組みを持ち、透明性 を高めていることです。それには国際的な学術関連団体が定める「出版倫理ガイドライン」が欠かせません。これらを守ることは、研究者からの信頼を守り、ジャーナルの評価を高めるためにとても重要だともいえるでしょう。
一口にガイドラインといっても様々なものがあります。
今回は、医学分野のICMJE 、科学全般のCSE 、電気工学分野のIEEE という3つの団体のガイドラインを調べてみました。それぞれの特色やICMJE Recommendationsが他分野にも大きな影響を与えている理由など、一緒に見ていきましょう。
3つのガイドラインの特徴とは?
まず、それぞれの団体がどのようなガイドラインを作っているのか、比べてみましょう。
• ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)
主に医学雑誌の編集者たちが集まって、医学分野における論文発表のルールを決めています。「臨床試験の適切な登録」や「研究に関わるCOI(利益相反)の開示」など、医学研究ならではの倫理的な課題に焦点を当てたルールが特徴です。
• CSE(Council of Science Editors)
生物学、化学、医学など、広い科学分野の編集者からなる組織です。科学全般を対象とした出版倫理ガイドラインに加え、詳しい論文作成マニュアルも提供しています。以前のコラム でも紹介しましたが、研究不正に関する具体的な事例を詳しく解説している点が特徴です。
• IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)
コンピューターサイエンスと電気工学の分野における世界的な学会です。150を超えるジャーナルを発行しており、それらに共通する出版倫理ガイドラインを作っています。軍事・防衛関連分野の論文や、データ分析に関する特別なルールがあるのが特徴です。
これらのガイドラインを比べてみると、「研究不正は絶対ダメ」「著者としての責任を果たす」「研究に関わるお金の流れはきちんと公開する」といった、重要なことは共通して示されています。一方、その影響力には大きな差が見られました。
ICMJEの強い影響力
今回の調査で驚いたのは、本来医学分野のガイドラインであるICMJE Recommendationsを参照しているジャーナルの多さです。科学全般を含むCSE会員が編集を務める19誌のジャーナルを調査したところ、すべてのジャーナルがICMJEのガイドラインを引用していました。さらにCSEのガイドラインにもICMJE Recommendationsへの参照がたくさんあり、CSE自身がICMJEのルールを順守していることがうかがえます。
またIEEEのガイドライン自体への直接的な引用はないものの、電子工学系ジャーナルの中にもICMJE Recommendationsを参照しているジャーナルが散見されました。 他にも科学の総合誌である「Science」や「PNAS」、工学系、人文科学系の雑誌もICMJE Recommendationsを引用しているジャーナルが目立ちました。こうした医学以外の分野の雑誌ではICMJE Recommendationsから特に「著者資格 」について参考にしていることが多いようです。
このようにICMJE Recommendationsは分野の垣根を越えて幅広い分野に影響を及ぼしていることがわかりました。
なぜICMJEは影響力がある?
ICMJEがこれほど多くの分野で影響力を持っている背景には、以下の要因が考えられます。
• 医学分野の厳格な倫理のルールであること
人の命に関わる医学研究では、倫理的な配慮が特に大切にされます。ICMJEは長年にわたり、臨床試験の登録やCOIの開示といった、医学研究ならではの倫理的な課題に対応したガイドラインを作りました。これらのルールが、他の分野が研究倫理を考える上でも大切な土台となっていると考えられます。
• 常に最新の情報にアップデートしている
ICMJEのガイドラインは、科学の進歩や新しい倫理的な問題が出てくるのに合わせて、定期的に内容が更新されています。実際的で最新の情報が載っているからこそ、多くのジャーナルの編集者や研究者にとって信頼できるのでしょう。
• 国際的に認められ、使われている
ICMJEは国際的な委員会であり、そのガイドラインは世界中の医学系ジャーナルで広く採用されています。このように多くの実績があることが、他の分野への影響力をさらに広げているのだと考えられます。
まとめ:信頼されるジャーナル運営のために
今回の調査からは、国際的な学術関連団体が発行する出版倫理ガイドラインには、論文を出版するうえで重要な内容がたくさん書かれていること、ガイドラインごとに異なる特徴を持っていることがわかりました。例えば研究不正についてより深く理解したい場合には、具体例が豊富なCSEのガイドラインが参考になります。また、著者資格の決定や倫理的な問題について悩ましい問題があった際には、分野を問わず広い影響力のあるICMJEのガイドラインが助けとなるでしょう。そしてIEEEのガイドラインは、電気工学分野の他のジャーナルもお手本にできる厳格なルール作りがなされています。状況やジャーナルの分野によって適切なガイドラインを参考にすることで、より適切な判断ができるようになります。
出版倫理ガイドラインに沿ってジャーナルを運営 していくことは、ジャーナルの信頼や評価を高める 上で、きわめて重要です。
同時に国際な学術情報データベース(例えばESCIやPMC, MEDLINE など)への掲載維持や収載を目指す 上でも、これらのガイドラインに沿った運営は欠かせません。
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