研究者の「名刺」、ORCIDとは?

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名は体を表すと言いますが、同じ名前が同じ人を指すとは限りません。あるいは、同じ人でも、国が違えば名前の表記が変わることもあります。このように、私が「私」であることの証明は、簡単そうで実は難しいのです。

個人をどう識別するのか、いわゆる「名寄せ問題」は、学術界においても大きな問題となってきました。同じ苗字の人が大量にあるケースや、結婚による改姓、表記揺れ、文化圏による姓名表記の違いなどが原因です。これを解決すべく開始されたのが、ORCIDと呼ばれる研究者識別子です。その誕生から活用場面まで、詳しく見ていきましょう。

ORCIDとは

Open Researcher and Contributor IDの略で、研究や学問、イノベーション活動に従事する個人のための、無料で使える一意で永続的な識別子のことです。具体的には、16桁の数字からなる識別子(ORCID iD)と、それに紐づけられた研究の記録 (ORCID Record)を指します。

背景

90年代半ばに拡大したジャーナル電子化の波を受け、1997年、電子出版物の識別子であるDigital Object Identifier(DOI)が付与されるようになりました。機を同じくして、著者に対する識別子の必要性も認識されるようになります。ジャーナル数増加やグローバリゼーションに伴い論文著者が増加しており、研究者とその成果を正しく紐づけることは喫緊の課題だったのです。学術データベースごとに著者情報の記録方法も異なっており、同じ研究者の実績が別人のものと認識されることもありました。

ORCID誕生の歴史

以上のような問題を背景に、2009年に米国で開催された名前識別子サミットにおいて、イニシアチブとしてORCIDが提案されました。翌年、非営利団体ORCID Inc.が発足し、2012年には研究者識別子であるORCID IDの付与サービスが開始します。それ以前にも研究者IDの導入は模索されていましたが、営利団体によるものであり、中立性という観点でORCIDは一線を画していました。以来、利用者数は増加の一途をたどっており、アクティブ研究者数は、2025年現在で950万人にも上ります。

 

ORCIDの仕組み

 

氏名ではなくORCID iDを研究者個人に付与し、そのIDに個人の研究実績を紐づける形で記録していきます。

また様々なシステムにORCID iDを登録しておくことで、そのシステム内での活動とORCID iDが結び付きます。例えば投稿査読システムであれば、投稿論文の掲載や査読といった研究活動とORCID iDが結び付き、自動的にORCID Recordへと集約されるようになります。

多くの業績リストが名前をキーとして機械的に生成されたもの、あるいは自己申告に基づいたものです。一方、ORCID Recordは本人に加えて、学会、出版社や研究機関、助成機関などのORCIDメンバー(スポンサー機関)が「公式に」更新することができます。つまりORCID iDの利用が広まることで、名寄せ問題解消と同時に、ORCID Recordがより信頼性の高い研究者データベースとなる可能性を秘めています。

ORCIDの利点

では、ORCIDを使うことによってどのような利点があるのでしょうか。

①研究者の名寄せ問題解消

どこに所属していようと、名前や研究分野が変わろうと、IDは経歴を通じてその人のものです。氏名とは異なり16桁の識別子は一意のデータであるため、研究者の名寄せ問題を解消できます。

②システムへの情報入力簡易化

ORCID iDをシステムと連携することで、フォームに情報が自動入力されます。ORCIDの登録ができるシステム間でのデータやり取りが行われるため、研究者は都度情報を入力する必要がなく、貴重な時間を確保できます。またORCIDへのログイン情報を使ってシングルサインオンが可能なサービスもあります。

③実績の集約

ORCID Record にまとめて研究の実績を登録できます。手動で登録するほか、先に示したようにシステム間の連携により自動更新されることもあります。なおORCID Recordは項目ごとに”一般公開” “限定公開(自身が認証した場合のみ)” “非公開”の3段階で公開範囲を設定できます。

想定される活用場面

IDを登録する研究者本人はもちろんですが、その他さまざまな関係者がORCIDを活用することができます。

  • 研究者:論文投稿や求職、研究資金の応募時に利用。学術記録を公開することで、研究のネットワーク構築も可能になります。
  • 研究機関:自組織メンバーの研究実績評価や採用時の評価に利用。そのほか、組織の強みのある分野の同定や、構成員の実績追跡がより容易になります。
  • 学会:学会員のプロファイル情報を強化。研究成果の公開や学会員間のコラボレーション支援にも使用できます。
  • 出版社:投稿システム内でアカウントの重複がなくなるため、著者や査読者の追跡を確実に実施できます。関連学術成果の発見などもしやすくなります。
  • 資金助成機関:申請者の情報をより簡単に入手・処理。個々のプロジェクト評価にも使用できます。

ORCIDを使用することで、研究者と、研究者に紐づくデータを一元的に管理でき、様々な場面での透明性と効率の向上が期待できます。ジャーナルの電子化や、オンラインでの研究者同士の交流もますます活発になっている今、その重要性は増しています。一方で、論文提出の際にORCID登録を義務付けている出版社もあり、著者の権利や学問の自由を侵害するという意見もあります。学術界全体の透明性向上と発展のために、今後も模索が続けられていくでしょう。

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<参考>

ORCID   https://orcid.org/

Porter, S.R. Understanding ORCID adoption among academic researchers. Scientometrics (2025). https://doi.org/10.1007/s11192-025-05300-7