eLife 変化がもたらすもの

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eLife 変化がもたらすもの

変化が常にいい結果をもたらすとは限りませんが、変化を恐れてしまうことが、成長を妨げることもまたあり得ます。長い 歴史を持つ学術界では、ある面では伝統を保持しながらも、他方では常に変化を続けてきました。今日、学術業界はなおさまざまな課題を抱えていますが、それに対する取り組みは多く存在します。今回はその中でも、学術ジャーナルの背骨ともいえる”査読プロセス”に対し様々なアプローチを行っている eLifeと、それに対する学術界の反応を見てみましょう。

■eLifeとは

eLifeは、生命科学・生物医科学分野のオープンアクセスジャーナルです。大手研究助成機関である英国のウェルカムトラスト、米国のハワードヒューズ医学研究所、ドイツのマックスプランク協会によって2012年に創刊 されました。「科学のために、査読と出版プロセスを改善すること」を目的としており、新たな学術発信やコミュニティーの在り方を模索しています。
当初、論文投稿料・掲載料は無料でしたが、投稿数増加に伴い2016年からは掲載料が導入されています。

■変わりゆくフロー

eLifeの大きな特徴に、独自の査読・出版プロセスがあります。

2012年 発足当初

発足当初のeLifeは、従来の学術ジャーナルで行われてきた伝統的な査読プロセスに則りつつも、以下のように新しい試みを取り入れました。

  • 著者は予備投稿を行い、Editorは本投稿依頼か却下かを選択
  • 査読後、修正を依頼する場合には本当に必要なものに絞り、字数も制限した統合コメントを返却
  • 修正版が投稿されると、査読者には回さずEditorのみが判定を実施

2021年 フローの変更

発足から10年を目前に、上記のフローからさらに踏み込んだ変更が行われました。主な変更点は以下です。

  • 本投稿が決まればプレプリントの公開が必須に
  • 査読コメントの一部をPublic reviewとして公開

2023年 新しいモデルの導入

2023年、eLifeは完全に新しいモデルを導入します。それは、査読後に採否を決定するという旧来のモデルを脱却し、査読した論文はすべて掲載するというものでした。掲載時にはeLife独自の指標による評価も公開されます。修正するかどうかや最終版の決定も、完全に著者の自由となりました。

  • 本投稿で査読に回すことが決まった時点で、掲載が決定
  • 査読後、Public向けコメントに加えてeLifeの評価を掲載
  • 修正は著者に委ねられ、任意のタイミングで最終版とできる

■学術界の反応

上記のモデルは、少数の査読者による論文の採否決定や「何を」発表するかよりも、「どのジャーナルで」発表するかを重視する昨今の風潮に対して疑問を投げかけるものです。この新方針は、研究者や編集者を中心に賛否を巻き起こしました。
著者側の選択肢を広げたという点は一定の評価を得ており、査読プロセスの大幅な変更後も投稿数・掲載数ともに大きな変化は見られていないことから、この取り組みは著者に受け入れられているといえるでしょう。
その一方でEditor による選別が依然として存在することを疑問視する声もあります。また2023年の変更により、このモデルでは査読による品質の保証がなされないという理由で、eLifeは2025年からジャーナル・インパクトファクター(JIF)を剥奪されました。この影響で中国からの投稿数は激減したものの、その他地域では比較的安定しており、eLifeは引き続きJIF偏重の風潮からの脱却を目指すとの姿勢を保っています。

■試行錯誤の先に

あらゆる物事にメリットとデメリットがある以上、全方位が納得する完璧な解決策は存在しません。eLifeの取り組みが必ずしも最適解とは限りませんが、既存の仕組みに疑問を呈し新しいモデルを試行する姿勢は、学術界での議論を促す契機となっています。
学術にまつわる課題は、査読やJIFにとどまりません。想定される影響については十分に対策が必要ですが、様々な課題にアプローチする上で、eLifeの改革を恐れぬ姿勢は有効な手段のひとつと言えるでしょう。

個々のジャーナルもまた、常に改善を目指し変化していくことが大切です。Seeklでは、それぞれのジャーナルの状態や目標に合わせたコンサルティングプランをご用意します。お気軽にお問い合わせください。