解説:J-STAGEの中長期戦略 ~ジャーナルの機械可読性とは~

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解説:J-STAGEの中長期戦略 ~ジャーナルの機械可読性とは~

ジャーナルのオンライン出版に欠かせないのが学術流通プラットフォームです。海外では各出版社が独自に展開していますが、国内では国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営するJ-STAGEがその役目を担っています。

1999年に運用開始したJ-STAGEは、学術出版界の変化や学会からの要望に応えるために大規模なバージョンアップを繰り返してきました。
そして昨年末、利用学協会向けに「J-STAGEの運用および利用要件の改定案(全文XML必須化)に関するご意見募集について」というメールが配信されました。これもまたJ-STAGEが次のステージに移動するため準備です。

今回は2024年5月に公表されたJ-STAGE中長期戦略を振り返りつつ、そこから読み取れるJSTが描く未来予想図、そしてジャーナルが取るべき対応を見ていきましょう。

■J-STAGEの中長期戦略(2024年5月)

1999年の運用開始以来、J-STAGEは大規模なシステム改修を繰り返しながら世界標準に則って電子ジャーナルプラットフォームに必要な機能の追加や向上を図ってきました。ジャーナルを取りまく環境の急速な変化に対応すべく、JSTは外部有識者を交えてJ-STAGEの進むべき方針について検討を行い、2019年に中長期計画を発表しました。その後、当時の中長期計画がおおよそ達成されたこと、当時より更に変化をした環境に対応すべく今後5年程度を見越した新たな中長期計画を2024年5月に発表しました。

カギは「学術情報を機械可読な形態で提供する」こと

J-STAGEはジャーナルを始めとした国内の学術情報を流通させるためのプラットフォームであり、閲覧数を増加させ発信力を高めていくことはJ-STAGEの最も重要なミッションといえます。その達成にむけてJ-STAGEは学術情報を機械可読な形態、すなわちXMLでの搭載を推進する立場を取っています。
機械可読とはコンピュータプログラムが容易に認識・解釈できることを指します。論文本文や書誌情報をXMLとして提供することで、MEDLINEなど外部のサービスとの迅速な連携が可能となり、またブラウザ上で論文全文を読めるようになるため、簡単に機械翻訳できるようになります。
ElsevierやSpringer Natureなど海外大手出版社は既にほぼすべての論文がXMLで作られていますので、環境への対応という意味でも正しい方向と言えるでしょう。

この施策の具体的な運用としてJSTは『令和10年度内に、資料種別「ジャーナル」に対し、全文XMLファイルを登載必須とする』という方針を持っており、先のメールでは学協会を中心にご意見を募集制定していたようです。

■J-STAGEでの論文公開形式について

ここでJ-STAGEに論文を搭載する2つの方式を確認しておきましょう。

全文HTML公開(全文XML形式)

全文HTML公開(全文XML形式)は論文全体をXMLで構造化した公開形式です。本文、見出し、図表、参考文献、注記などが意味的にタグ付けされており、単なる「表示用データ」ではなく、機械可読性を重視した形式である点が大きな特徴です。
ElsevierやWileyといった海外の大手出版社も採用している世界標準といえます。J-STAGEにおいても標準的かつ将来志向の公開形式と位置付けられており、近年はこちらへの移行が進んでいます。

書誌公開(書誌XML形式)

書誌公開(書誌XML形式)は論文全体ではなく書誌情報と抄録をXMLで構造化し、本文はPDF等で公開を行う形式です。全文HTML公開に比べると機械可読性は劣りますが、費用を抑えやすいのが長所です。

簡単な見分け方としてJ-STAGEを開き、全文をHTMLで読める場合は全文HTML公開(全文XML形式)、そうでない場合は書誌公開(書誌XML形式)で作られています。

■日本の状況は?

J-STAGEの検索機能を使って、全文HTML公開(全文XML形式)で全文を公開で公開された論文の数を調べてみました。

2000年には7.4万論文中たったの9論文とたった0.01%だったものが、2025年には7,021論文と25年間で約780倍も増えています。しかしそれでも総数の約11.4%であり、順調に移行しているとはいいがたい状況でしょう。
令和10年度の全文HTML公開必須化までにどのくらい進行するのか要注目です。

■ジャーナルが取るべき今後の対策は?

論文の全文HTML公開は世界標準です。これに追いつくべくJSTは令和10年度内に全文XMLファイルを登載必須とすることを目標として普及活動を続けています。しかし2025年に全文HTML公開された論文は約11.4%、目標達成までの道のりはまだまだ遠く、なかなか実態が伴わない状況にあります。

JSTが目標達成に向けてより強力な施策を取る可能性もあり、ジャーナルとしてはいずれ全文XML形式行せざるを得なくなると予想されます。

令和10年まであと2年。スムーズに移行できるよう、早めに準備を進めておきましょう。
Seekl及び杏林舎ではもちろん全文XML形式での雑誌制作も承っています。
お気軽にご相談ください。

[参考文献]
J-STAGE中長期戦略