価格弾力性の研究が示す「APCと投稿数の関係」

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価格弾力性の研究が示す「APCと投稿数の関係」

APC(論文掲載料)の導入を検討する雑誌からは、「料金を設けたとたんに著者が逃げてしまうのではないか」という懸念がよく聞かれます。直感的にはもっともですが、この10年ほどの実証研究は、やや異なる現実を示しています。

結論から言えば、著者は価格に対してそれほど敏感ではありません。

APCと投稿数の関係:価格の影響は限定的

HindawiとElsevierの完全オープンアクセス誌を対象にした分析では、投稿数の APC価格弾力性(APCの増減に対して投稿数がどれくらい敏感に変化するかを示す指標)の絶対値は1を下回り、「非弾力的(価格の影響を受けにくい)」であることが示されています(Asai, 2024)。

これは、APCを10%引き上げても投稿数は10%未満しか減少しないことを意味します。

同様の傾向は、BMC・Frontiers・MDPI・Hindawiの319誌を対象とした分析でも確認されています。さらに興味深いことに、APCが高い雑誌ほど掲載論文数が多いという逆説的な結果も報告されています(Khoo, 2019)。

また、経済学分野のトップジャーナルを対象とした分析では、価格弾力性は約−0.11と推定されています(Zheng & Kaiser, 2016)。これは、APCを10%引き上げても投稿数 は約1.1%しか減少しないという意味です。たとえば投稿が年間1,000本ある雑誌であれば、APCを10%上げても約11本程度の減少にとどまります。

これらの研究が示しているのは、投稿先の選択において、APCの金額はさほど大きな影響を与えているわけではない、ということです。

著者は何を重視するのか

では、著者は何を基準に投稿先を選んでいるのでしょうか。

2021年、Elsevierはあるミラージャーナル1のAPCを大幅に引き下げました。著者がAPCの価格に敏感であれば投稿は安いミラー誌に移動するはずです。しかし実際には親誌とミラージャーナルで出版されたOA論文の総数のうち72%が高APCの親誌に掲載され、ミラージャーナルの論文数の増加は比較的小さなものでした。(Asai, 2023)。

この結果は、著者は投稿先の決定においてAPCよりも雑誌の知名度やインパクト(被引用スコア)をより重視することが示唆されています。

APCは「質のフィルター」としても機能する

APCには収益以外の役割もあります。

理論研究では、投稿料は過剰投稿を抑制し、採択確率の低い論文の流入を防ぐスクリーニング機能を持つとされています(Cotton, 2013)。無料にすることは一見著者に優しいように見えますが、低品質な投稿が増え、査読負担の増大や雑誌の質低下につながる可能性があります。同研究では、「中程度の料金」と「中程度の査読待機時間」の組み合わせが最適とされています。

APCは”ジャーナルの品質や影響力“を示すシグナル

APCと雑誌の影響力の関係についても実証研究があります。

ハイブリッド誌ではAPC価格と被引用影響度(SNIP2)はあまり関連しませんが、完全OA誌では、APCと被引用影響度(SNIP2)の間に正の相関が確認されています。つまり完全OA誌ではAPCがジャーナルの品質や影響力を示すシグナルとして機能しうることが示されています(Schönfelder, 2020)。

格差の問題

「APCの金額は投稿数に大きな影響を与えていない」という結果への違和感は、経済格差を考慮することで解消されるかもしれません。

3万7千本以上の論文を対象とした分析では、低所得国の著者の論文が完全 OA誌には存在しなかったことが報告されています(Smith et al., 2022)。また、DOAJ3収録誌の論文を対象とした分析でも、掲載誌の平均APCと国や機関の資金力には相関があり、経済格差が投稿先の選択肢に影響を及ぼしていることが示されています(Klebel & Ross-Hellauer, 2023)。

この問題を解消するために多くのOA誌が低所得国向けの免除・減額制度を設けていますが、残念ながらその実効性には限界があると指摘されています(Borrego, 2023)。

大事なのは「APCの有無」ではなく「導入設計」

ここまでの話を踏まえると、APC導入に関する示唆ははっきりしてきます。

  1. APCが投稿数に与える影響は小さく、APC導入で投稿が急減する可能性は低い
  2. APCは採択可能性の低い論文のスクリーニングやジャーナルのブランド価値のシグナルとして機能しうる
  3. 経済的格差を助長する可能性がある

したがって、導入の際に重要になってくるのは、ただ導入すればよいということではなく、どのように設計して導入するかということです。

  1. 財務上の必要性に基づく価格設定
  2. 自誌の領域内ポジションからみた「中程度の価格」の見極め
  3. 低所得国・資金の乏しい著者へ配慮した制度

これらを組み合わせて設計する必要があります。

さいごに

APC導入の心理的なハードルが高いのは間違いありません。

一方で、雑誌は成長に合わせて、その運営にかかるコストが増えることも事実です。雑誌の将来を見越して早めに制度設計をすることは、成長の持続可能性を高めることにもつながります。

APCをすでに導入している雑誌も、まだしていない雑誌も一度議論してみてはいかがでしょうか。

余談

APCの価格弾力性に関する文献調査を進める中で、購読誌がOAへ転換した際の影響を調べた研究に偶然出会いました。そのなかで、生命科学系雑誌の転換後4年間の追跡では、標準化したジャーナル・インパクトファクターが約43%増加し、転換しなかった対照群の+7%を大きく上回ったとありました(Momeni et al., 2021)。感覚的には当然の結果かもしれませんが、具体的な数値として現れているところが興味深いですね。

脚注

  1. ミラージャーナル:既存の購読誌(親誌)と同じ編集委員会・審査基準を持ちながら、完全オープンアクセス誌として別に設立された姉妹誌。Elsevierが複数の分野で導入した。
  2. SNIP(Source Normalized Impact per Paper):雑誌の被引用影響度を示す指標。分野ごとの引用慣行の違いを補正して算出されるため、異なる分野の雑誌間での比較に適している。
  3. DOAJ(Directory of Open Access Journals):質の基準を満たしたオープンアクセス誌を収録する国際的なデータベース。現在2万誌以上が登録されている。

参考文献

  • Asai, S. (2023). Authors’ choice between parent and mirror journals of Elsevier. Learned Publishing, 36(2), 299–306. https://doi.org/10.1002/leap.1530
  • Asai, S. (2024). Determinants of manuscript submissions to fully open access journals: elasticity to article processing charges. Scientometrics, 129, 1687–1696. https://doi.org/10.1007/s11192-024-04934-3
  • Borrego, Á. (2023). Article processing charges for open access journal publishing: A review. Learned Publishing, 36(3), 359–378. https://doi.org/10.1002/leap.1558
  • Budzinski, O., Grebel, T., Wolling, J., & Zhang, X. (2020). Drivers of article processing charges in open access. Scientometrics, 124(3), 2185–2206. https://doi.org/10.1007/s11192-020-03578-3
  • Cotton, C. (2013). Submission fees and response times in academic publishing. American Economic Review, 103(1), 501–509. https://doi.org/10.1257/aer.103.1.501
  • Khoo, S. Y.-S. (2019). Article processing charge hyperinflation and price insensitivity An open access sequel to the serials crisis. LIBER Quarterly, 29(1), 1–18. https://doi.org/10.18352/lq.10280
  • Klebel, T., & Ross-Hellauer, T. (2023). The APC-barrier and its effect on stratification in open access publishing. Quantitative Science Studies, 4(1), 22–43. https://doi.org/10.1162/qss_a_00245
  • Schönfelder, N. (2020). Article processing charges Mirroring the citation impact or legacy of the subscription-based model? Quantitative Science Studies, 1(1), 6–27. https://doi.org/10.1162/qss_a_00015
  • Smith, A. C., Merz, L., Borden, J. B., Gulick, C. K., Kshirsagar, A. R., & Bruna, E. M. (2022). Assessing the effect of article processing charges on the geographic diversity of authors using Elsevier’s “mirror journal” system. Quantitative Science Studies, 2(4), 1123–1143. https://doi.org/10.1162/qss_a_00157
  • Zheng, Y., & Kaiser, H. M. (2016). Submission demand in core economics journals: A panel study. Economic Inquiry, 54(2), 1319–1338. https://doi.org/10.1111/ecin.12277
  • Momeni, F., Mayr, P., Fraser, N., & Peters, I. (2021). What happens when a journal converts to open access? A bibliometric analysis. Scientometrics, 126(11), 9811–9827. https://doi.org/10.1007/s11192-021-03972-5